Firefox、デザイン刷新=バージョン89の詳細
Mozilla は2021年6月1日(米国時間)、同社 Web ブラウザの最新版「Firefox 89」安定版をリリースした。今回公開されたのは、デスクトップ向けのバージョンで、Windows / macOS / Linux 版が利用できる。
Mozilla は以前から、今メジャー・アップデートについて「デザイン面で大きな改良がある」と予告していた。同社は「洗練された一貫性のある、分かりやすさを求めたデザイン」としており、カラーやアイコン、各アイテムの配置など、ピクセル単位で細部にも気を配ったという。
Firefox 89、新 UI "Proton" 搭載=目指したのは "シンプル、モダン、高速" そして "安全"
Firefox 89 は、コードネーム「Proton」として開発されてきた新しい UI デザインが採用され、シンプルでモダンな外観と直感的なユーザ体験の提供が特徴になる。リリースノートに速度面の言及は無いが、数日間利用してみた感想として、ブラウジングや使用感のスピードアップおよび安定性の向上が実感できた。
新バージョンでは、利用頻度の低い余分なツールは思い切って排除され、メニューから無駄なアイコンやアイテムも消えた。合理化と簡素化によって、 視覚的な混乱を取り除き、直感的な作業を可能にするという方向性を鮮明にしたといえる。
簡略化されたツールバー、合理化されたメニュー、そして一番目立つ変更ポイントとして「タブ」の UI 変更が挙げられる。Mozilla によると、ユーザの50%以上は4つ以上のタブを常時開いて作業しているという。使用頻度の高い機能だけに、タブバーは今回もっとも注力した再設計ポイントの一つになった。
新しい「タブ」は、アクティブな状態になれば丸みを帯び、シャドウで縁取られて浮かび上がるような外観に刷新された(上スクショ参照)。
サイズ的にも余白(パディング)が十分に取られてやや大きくなり視認性も向上。また、ツールバーから切り離されたようなデザインによって、タブ機能をより直観的に扱えるのではなかろうか。
タブ以外のパネルやメニューなどの UI についても、コーナーがわずかに丸くなっていたり、また、ブックマークのドロップダウンメニューの項目間隔が少し広く設定されるなど、Proton 搭載によるデザインの一貫性が垣間見れる(Proton をオフにする方法は後述する)。
先述の通り、ツールバーとメニューは、よりシンプルに集約・再編された。
メニュー内容は必要なものにすぐにアクセスできるように統合や簡素化が施されており、視覚的なノイズを減らすことでユーザビリティの向上につなげている。
その他、カメラやマイクの使用許可を確認するパネルなどの "プロンプト" を刷新した。
パネルの統合と簡素化された UI によって、ユーザは作業中であっても迅速にリクエストに対応できるだろう(上スクショ参照)。
また、通知やメッセージ、アラートの類は最小限に抑えられ、メディア自動再生はデフォルトでオフになった。ユーザはこれまで以上に雑音に悩まされることなく、落ち着いてコンテンツに集中可能な環境を入手できる。
モバイル版アプリでもアイコンやメニュー項目などのデザイン要素を更新して、デスクトップ版との一貫性を持たせた。
Firefox 89、デザイン刷新の裏付け=膨大なデータを収集・分析
開発チームは今回の大幅刷新にあたって、1か月間の170億回におよぶクリックを観察した。クリックがどのようなアクションにつながったのか、そして目的を達成したのかどうかなど、ユーザのパターンや行動、つまり「Firefox をどのように使用しているのか」について詳細に研究したという。
もっともクリックが多かったのはタブバーの43%、次いでナビゲーションバーの33%、ブックマークは5%だった(上スクショ参照)。
このような分析をベースに、例えば、アドレスバーの右端にあった "スリー・ドット・メニュー"(= "ミートボール・メニュー" = 3つの点の横並びのメニュー)は廃止され、メニューは右クリックメニューとハンバーガーメニュー( ☰ ← 3本の水平ラインのメニュー)の2つに絞られた。
合理化を図ることで、開発の基本目標である「最小限のクリックで目的地に導く」ことを目指した。デザインはピクセル単位で徹底的に再設計され、ユーザ体験の集中と合理化につなげた。
Mac ユーザ向けの改良点
Mac 版では右クリックメニューで "ダークモード" が選択可能になったほか、エラスティック・オーバースクロール機能(ページの最後までスクロールした時の弾むようなアニメーション効果)と Multi-Touch ジェスチャの "スマートズーム"(トラックパッドで2本指によるダブルタップ、または Magic Mouse で1本指でダブルタップによる拡大・縮小)が新たに追加された。
エラスティック・オーバースクロールは Safari などで使われているが、今回 FF に実装されたのは、Apple の特許期限が切れたためと思われる。ちなみに、Android 12 でも採用される予定だ。
プライベートモードの強化
プライベート・プラウジングでは、"Total Cookie Protection" が常時有効化された。
Web サイトごとに個別の Cookie jar を作成することで、Web サイトをまたいだクロスサイトの Cookie 追跡(共有)を防ぐ機能がデフォルトで追加される。
Mozilla は「プライバシー保護の面で最も先進的なブラウザだ」と述べ、サイトをまたぐような追跡をシャットダウンできるとしている。
デベロッパ向け機能の追加
開発者向けの情報として、Event Timing API (PerformanceEventTiming インターフェース) および forced-colors メディアクエリのサポートが加わった。
また、インスペクター・パネルで編集可能なボックスモデルのプロパティのキーボード・ナビゲーションが改善されている。
脆弱性とバグの修正も含まれる
すでに Firefox を利用しているユーザは最新版に自動更新されるが、ハンバーガーメニューのヘルプ>「Firefox について」から手動で更新することもできる。なお、次期バージョンからバックグラウンド・アップデートが追加される予定であり、起動していない状態でも自動更新してくれる。
デスクトップ版の Firefox はセキュリティ面の安心度が高いだけでなく、使い勝手もすこぶる良い。個人的にも長年に渡って愛用してきたブラウザだ。
今回の "メジャー・アップデート" は、ここまで長々と述べてきてちゃぶ台を返すようで恐縮だが、とりわけて大きな変更点はあるとはいえない。良くも悪くも "今まで通りの使い心地" なのだ。
事実、Mozilla 自身も「良いデザインは目に見えないものだ」と言及しており、実際に汗を流して働くのはコード、構成、セキュリティ設定、プロセスなどといった「バックエンド」(裏方さん)だ。表示領域の95%は Firefox 本体ではなくコンテンツに属しているのである。
ただ、今アップデートには複数の脆弱性とバグの修正も含まれているため、Firefox ユーザには早急なアップデートを推奨したい。
なお、新しい Proton のデザインが気に入らなければ、アドレスバー about:config から、高度な設定で proton を検索後、browser.proton.contextmenus.enabled などの true を false にすれば無効にできる(上スクショ参照:4つの true を false に変えると無効化される)。
今回のアップデートは今後の基盤になるものであり、バージョン89をベースに改良が進められることになる。なお、次期 Firefox 90 はベータ版が公開されており、安定版は2021年7月にリリースされる予定だ。
同ブラウザの世界シェアは下落傾向が続いている(現在は6~7%程度)が、巻き返しなるか注目したい。
The New Firefox Redesign
<Sources>
- Firefox 89 Release Notes
- Modern, clean new Firefox clears the way to all you need online - Mozilla Blog
- A fresh new Firefox is here - Mozilla Blog
- Behind the design: A fresh new Firefox - Mozilla Blog
- Firefox Twitter
- デスクトップ用 Firefox ダウンロードサイト
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